認知症について

ホーム > 診療のご案内 > 脳神経外科 > 認知症について

認知症について

認知症、物忘れの現状と治療について

認知症の疫学~認知症を有する高齢者の将来推移~

認知症は「ありふれた疾患」。高齢社会では珍しい病気ではありません。65歳以上で10~20人に1人、85歳以上で5~6人に1人が認知症です。

認知症高齢者の推移

原因疾患別認知症の割合

表2 認知症を示す疾患

1 脳変性疾患、アルツハイマー型、ピック病、ハンチントン舞踏病、正常圧水頭症、多発硬化症、パーキンソン病、進行性核上麻痺、多巣性白質脳症
2 血管障害 脳血管性認知症(多発梗塞性認知症、ビンスワンガー病)、もやもや病、脳動静脈奇形
3 頭蓋内占拠性 脳腫瘍、硬膜下血腫
4 外傷 外傷性認知症
5 感染症 進行麻痺、急性硬化性脳炎、クロイツフェルト・ヤコブ病
6 中毒性障害 アルコール性認知症、コルサコフ症候群、慢性バルビツール中毒
7 代謝障害 尿毒症、肝障害、ウイルソン病、ポルフィリン症、高カルシウム血症、癌の遠隔効果
8 内分泌障害 粘液水腫、アジソン病、下垂体機能低下症、副甲状腺機能低下症および亢進症、低血糖症、クッシング病
9 酸素欠乏性認知症 貧血、うっ血性心不全、慢性肺疾患、麻酔後脳症、一酸化炭素中毒後遺症
10 ビタミン欠乏性疾患 サイアミン・ニコチン酸・B12・葉酸欠乏症、ペラグラ
11 てんかん てんかん性認知症

認知症の原因となる可能性がある病気

根本的には治療が困難な病気

アルツハイマー病、ピック病、レビー小体病、ハンチントン病、脊髄小脳変性症などの変性疾患

予防が困難な病気

多発性脳梗塞・脳出血・ビスワンガー病などの血管障害

治療が可能な病気

正常圧水頭症・慢性硬膜下血腫・脳腫瘍などの外科的疾患 甲状腺機能低下・ビタミン欠乏症などの代謝性疾患 脳炎・髄膜炎などの炎症性疾患 廃用症候群(これは他の認知症に合併することが多いので注意が必要)

治療可能な認知症と治らない認知症

画像診断以外の検査

血液検査、胸部レントゲン、心電図など

「老化」と「認知症」の記憶障害の違い

生理的なもの忘れ(良性健忘)と悪性のもの忘れ(認知症)との違い

生理的なもの忘れ(良性健忘)悪性のもの忘れ(認知症)

原因 生理的で加齢により生じる 病的で認知症疾患にみられる
記憶 軽度減退 とっさに思い出せないもの忘れ (ヒントを言われると思い出せることが多い) 明らかに減退できごとそのものを忘れてしまう (記銘力の他に想起も不得意になる)
見当識の障害 (時や場所の誤り) 伴わない 伴う
社会生活 支障がない 支障がある
経過 いつ頃からもの忘れがでたか、また、進行しているかどうかもはっきりしない 徐々に進行する(数ヶ月~年単位で低下してきているのがわかる)

アルツハイマー型認知症とは

老年期における認知症の大半を占めるといわれているアルツハイマー型認知症は、脳の特異な変化により、脳内の神経細胞が大量に脱落し、脳全体が小さくなってしまう病気で、詳しい原因はまだ不明です。

記憶の障害や、理解力、判断力が低下し、これにより日常の社会生活に支障をきたしますが、麻痺や感覚障害などの身体的な障害はほとんどみられません。

アルツハイマー型認知症は、ゆっくりと発病し徐々に進行(悪化)していくという特徴があります。

アルツハイマー病とは

  • 高齢者に多いありふれた病気です
  • 病気ではなく、「年のせい」と思われ、今までは病院を受診されていませんでした
  • 脳の萎縮がおこる病気です
  • 徘徊や興奮などの激しい症状は、見られない人の方が多く、あっても対応次第でよくなります
  • 直接に命を奪うものではありません
介護上のいろいろな問題は、介護者だけで抱え込まず、かかりつけ医に早めに相談して対応することで、負担を減らすことができます。

アルツハイマー型認知症の経過・進行

アルツハイマー型認知症は、症状が徐々に進んでいくのが特徴です。

アルツハイマー型認知症は、発症すると緩やかなカーブを描いて進んでいく病気です。症状が進むにつれ、記憶の障害や判断力の低下に、時間や場所、人物などの混乱が加わって、自立した生活ができなくなります。ときには妄想や徘徊など問題行動がでることもあります。経過期間には個人差があり、3~4年から10数年とさまざまです。

アルツハイマー型認知症の診断基準 DSM-Ⅳ

認知症疾患の診断の流れ

アルツハイマー病の経過

能力の低下(中核症状)と反応性の症状(周辺症状)

必ずみられる症状(中核症状)

  • ・もの忘れ、判断力の低下など -病気の進行とともに悪化し、治りにくい

→進行を遅らせる薬による治療

反応性の症状(周辺症状)

  • ・抑うつ、妄想、幻覚、不穏など
  • ・環境や人間関係などの影響で起こる
  • ・病気の重症度は直接関係しない -良くなったり、悪くなったりする -起こらないことの方が多い -治療や対応で良くなることが多い
→対応の工夫・薬による治療

アルツハイマー病の症状 ~中核症状~

年代別健康成人の脳の画像

年代別健康成人の脳の画像

経年による脳萎縮の変化

側頭葉海馬の萎縮に伴う下角の拡大

  • ※画像左から 軽度70歳代後半 中等度80歳代前半 高度80歳代後半

アルツハイマー病とは

主に鑑別すべき症状や疾患

  1. 生理的なもの忘れ
  2. うつ病
  3. 意識障害(せん妄)
  4. 脳血管性認知症

お昼に何を食べたか思い出せない-老化による”もの忘れ”は、体験の一部を忘れます。しかし、アルツハイマー型認知症の場合、「お昼を食べたこと自体」、つまり体験の全体を記憶できなくなるのです。

せん妄とは・・

一過性に出現する意識混濁それに伴う認知障害を主症状とする状態で、急性の脳代謝障害などが原因となる。・思考、記憶、注意力などすべての精神機能に障害がみられ、それらが、急に始まり、症状の強さが一日の中で変化する。・意識障害全般(昏睡を除く)として解釈される傾向にある。

せん妄とアルツハイマー型認知症の違い

せん妄 アルツハイマー型認知症
発症 突然の発症 (発症時期を時間単位で特定できる) 緩徐
経過 一過性 数時間~数日、日によって、また1日の中でも症状が大きく変化するのが特徴である (何ヶ月も続くことは、まずない) 進行性

うつ病とアルツハイマー型認知症の違い

うつ病 アルツハイマー型認知症
気分・感情の障害 悲哀感、寂しさ 自責感、希死念慮 訴える 訴えることは少ない
妄想
  • ・心気妄想
  • ・罪業妄想
  • ・貧困妄想
  • ・ものとられ妄想
  • ・嫉妬妄想
  • ・被害妄想
持続期間 数週~数ヶ月 数年
抗うつ薬治療に対する反応性 (+) (-)
諸検査 (脳波, CT,MRI,血液検査) 正常 異常を認めることが多い

脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症の違い

脳血管性認知症 アルツハイマー型認知症
神経症 歩行障害 深部腱反射の亢進がみられることが多い 神経症候はあっても軽い
鑑別の手がかり になる随伴症状 感情失禁 抑うつ 多幸感濫集(際限なく物を集める)や 徘徊が多いという報告もある
経過 長期的にみれば階段状に悪化する、ただし、短い期間(1日~数日内)でみると、症状は動揺していることが多い 特別の誘因(引越し等)がない限り、なだらかな坂道状に悪化する
検査 CT、MRI:脳梗塞をみることが多い 脳波:局所性異常(左右差)をみることが多い CT、MRI:全般的脳萎縮、とくに海馬 脳波:初期は変化が少ない、しだいに全般的徐波化

アルツハイマー病の危険因子

ラクナ梗塞(脳梗塞の一種)は最大の危険因子 肥満、高血圧、糖尿病、高コレステロール、脳血管障害、心疾患、うつ病、頭部外傷、運動不足、喫煙、過度の飲酒

アルツハイマー病の予防

低カロリー食、ビタミンC,E、魚料理がよいといわれているが、大事なのは運動、趣味活動

  • ・なにもしない 1.0
  • ・新聞雑誌を読む 0.6
  • ・クロスワードパズル 0.3
  • ・チェスをする 0.2
身体と頭を同時に使い、社会性を保つことが大切。

アルツハイマー病の治療法

非薬物療法

過去に慣れ親しんだ音楽、道具などを利用し、患者さんの人生を回想させることで自己認識を回復させる「回想法」や、患者さん同士のゲームなどにより、コミュニケーションを促すことで、時間や場所など患者さんの置かれている現実を正しく理解してもらい、周囲への関心を促す「RO:リアリティーオリエンテーション」などが行われています。 その他、デイケア、グループホームなどの環境調整で患者さんの残された機能を引き出したり、心の安全をはかる試みが行われています。

薬物療法

過現在、残念ながら失われた記憶や機能を元に戻したり、アルツハイマー型認知症を完全に治す薬はありません。 しかし記憶障害などの中核症状の進行を遅らせたり、不安、妄想、不眠などの周辺症状の症状を抑えたりする薬があります。

薬物治療

塩酸ドネペジル (アリセプト) 軽度から中等度のアルツハイマー病の進行を遅らせる現在、唯一の薬表1 問題症状の薬物治療

抑うつ状態 抗うつ薬 三環系、四環系、SSRI、スルピリドなど
せん妄 不穏 興奮 歩行障害 向精神薬(チオリダジン、ハロペリドール、リスペリドン など)鎮痛薬(ジアゼパム など)
不眠 ベンゾジアゼピン系睡眠薬(二トラゼパム、トリアゾラム など)ゾピクロン、ベゲタミンB など

日常生活の質を高めるケアのポイント

安心できる環境をつくる

(1)見慣れたもの、使い慣れたものを身近におく

本人の気持ちを落ち着かせます。

(2)部屋の模様替えや新しい道具を持ち込むことは避ける

例えば便利だからといって、FAX付きの電話にかえると使い方を覚えるのはむずかしいので、本人を混乱させてしまします。

(3)場所や時間がすぐにわかるようにする

夜トイレだけに電灯をつけたり、トイレまでの戸を開けておくと、トイレに迷うことが減ります。 日めくりを目に付くところにおいたり、身近に季節の花や果物をおくと、今がいつかわかりやすくなります。

基本的な生活の注意点

(1)昼間と夜の区別をはっきりつける

昼間ぼんやりと何もせずに過ごすと夜ぐっすり眠れなくなり、頭の働きが悪くなります。ひどくなると夜興奮して騒いだり、徘徊したりするようになります。日中はできるだけ動いてもらい、夜は疲れて眠れるようにします。 家庭だけで毎日動き回ってもらうことはむずかしいので、デイケアやデイサービスを利用します。

(2)水分をきちんととる

自分から水分をとることがすくなくなるので、こまめにお茶などを渡し、きちんと必要量をとれるようにします。お茶や水を飲みたがらない人には、味のついた飲み物やゼリー、果物といった水分の多い食べ物で補います。

(3)バランスの良い食事をとる

独り暮しの人は、本人がいうほどきちんと食事がとられていないことがあります。冷蔵庫の中に同じ食品や賞味期限切れのものがいくつも入っていないかどうかを確かめ、必要なら食事を補います。

介護の基本原則

認知症の方は混乱しやすく、不安になることがあるので、安心して生活できるようになります。

1 不安をとりましょう。楽しい気分で

楽しいことや嬉しいことがあると不安な気持ちが治まります。一緒にお茶を飲んだり、少し話を聞くだけでも随分気持ちが落ち着きます。

2 言ったり、したりしたことを受け入れ、否定しない

命に関わらない間違いは聞き流しましょう。日付を間違えたり、亡くなっている方が今来ていたように言うことがあっても、生活に大きな支障がなければ、話をあわせます。 正しい情報はしばらくしてからカレンダーや仏壇を見せ、教えます。

3 ゆっくり本人のペースにあわせる

せかされると誰でもあわててしまいます。その人のペースで助けるようにします。

4 出来ることを探し、出来ることはしてもらう

洗濯が出来なくなっても、洗濯物を取り込むだけなら出来るかもしれません。出来ることをしてもらい役割を作ると、自信がついて精神的に安定します。

5 わかりやすい環境をつくる

夜トイレに迷わないようにトイレだけ電灯をつけたままにしておいたり、大事な用事は紙に書いて目にはいるところに貼り紙しておいたりすると、迷ったり混乱したりすることが減ります。 介護する人が余裕を持つ。介護する人に余裕がないと、安心させたり、ペースにあわせて待つことは出来ません。自分の時間の全てを介護に使うのは止めましょう。

余裕を持つためには

  1. デイケア、デイサービスを利用して、認知症の方から離れる時間を作る。
  2. 訪問看護、ヘルパーを利用し、介護の肩代わりをしてもらう。
  3. 専門医や介護の相談員などに相談し、認知症について正しい知識を得る。
  4. 認知症の家族会などに参加し、認知症をかかえ、同じ悩みを持つ家族と話し合おう。

脳血流検査(Xe-CT)

脳血流検査(Xe-CT) 正常

脳血流検査(Xe-CT) 認知症

特発性(正常圧)水頭症

認知症、歩行障害、尿失禁が3特徴。 脳血管障害や頭部外傷などの脳の病気の後に起こってくる場合もあるが、誘引のない場合もある。 手術(短絡術、シャント術)で治療は可能。

63歳、男性 慢性硬膜下血腫
術後

慢性硬膜下血腫

頭を打って多くは1カ月前後で徐々に頭痛が強くなる。 特に高齢者に多い他に手足の麻痺や認知症が進行したりしてくる。頭を打つ強さはむしろ弱いことが多く本人が忘れている程度の時も多い。

81歳、男性 特発性水頭症
術後
83歳、女性 慢性硬膜下血腫
術後

脳腫瘍

少しずつ認知症が進行することがある。 頭痛や手足の脱力、しびれ、目のかすみ、ふらつき、てんかんなど様々な症状が出てくる。 ひどい場合は意識がなくなる。

83歳、女性 脳腫瘍
術後

結論

  1. 一言で認知症といっても加齢によるものから病的な認知症までいろいろな種類があります。
  2. 認知症の中には治療が可能であったり、手術で治るものも含まれいます。
  3. 認知症が気になる方は一度、脳の専門家の診察を受けることをお勧めします。